宮崎県五ヶ瀬町にあった「五ヶ瀬ハイランドスキー場」は、日本でいちばん南のスキー場として知られていました。そしてもうひとつ、全国に名前を広めたものがあります。毎年ネットをざわつかせた、あの手この手の攻めすぎCMです。

その顔として6シーズン、さらに復活後の1シーズンを支えたのが、藤田可菜さん演じるヒロイン「南ちゃん」でした。この記事では、南ちゃんが登場するCMを公開が古い順に、動画つきで全部たどります。

はじめにお伝えします 五ヶ瀬ハイランドスキー場は、2026年7月7日に五ヶ瀬町が廃止を正式表明し、35年の歴史に幕を下ろしました。この記事は、いま行けるスキー場の紹介ではなく、残された名CMを振り返る記録として書いています。

五ヶ瀬ハイランドスキー場のCMが「面白い」と言われた理由

まず、なぜ小さな町営スキー場のCMが全国区の話題になったのかを押さえておきます。ここが分かると、時系列で追ったときの面白さが何倍にもなります。

日本最南端のスキー場が抱えていた事情

五ヶ瀬ハイランドスキー場は1990年開場。標高1,610mから1,420m、標高差190mにコース2本とリフト3基という、決して大きくはないスキー場でした。運営していた五ヶ瀬町は人口4,000人ほどの小さな町です。

雪国のスキー場のように黙っていてもお客さんが来る場所ではありません。「宮崎にスキー場がある」ことを、まず知ってもらう必要があった——CMが年々エスカレートしていった背景には、この切実さがあります。実際、CMの中でスキー場側が「リアルに困っています」と本音を漏らす場面まで登場します。

攻めすぎて放送規制、その反省から「南ちゃん」が生まれた

シリーズが始まったのは2013年シーズンのCMでした。天然雪の「ふわふわ感」を女性の胸元で表現するという内容で、ネットでは大きな話題になった一方、テレビ局から放送上の規制がかかったと制作側が明かしています。

その反省を踏まえて翌年に投入されたのが、「かわいくて天然で基本清純派なんだけど少しセクシー」というコンセプトのヒロイン、南ちゃんです。日本最南端のスキー場だから「南」。恋愛ドラマ仕立てにすることで、際どさを物語の中に着地させました。

企画制作を担当したのは電通九州と制作会社ランニング。CMプランナーはコピーライターの左俊幸さんです。単発のネタで終わらせず、南ちゃんとテッちゃんの恋物語を何年もかけて続編で語るという構成にしたことが、このシリーズを唯一無二にしました。

【前史】2013シーズン:南ちゃんの前には「ゆきちゃん」がいた

時系列で見ていく前に、南ちゃん登場前のCMに触れておきます。2012年11月〜12月に公開された2013シーズンのCMに出てくるヒロインは、南ちゃんではなく「ゆきちゃん」という別のキャラクターです。

天然雪と「天然な女の子」をかけた設定で、パウダースノーのふわふわ感をひたすら訴える構成。「ふわりんこビーム」「ゆきちゃん体操」といった、脱力系のネタが連続します。この時点ですでに、生真面目な観光CMとはかけ離れた作りでした。

このゆきちゃん編があったからこそ、翌シーズンの南ちゃん第1作は「その節はすみませんでした」という自虐から始まります。シリーズは最初から、前作を受けて次を作るという作り方をしていたわけです。

南ちゃん出演CMを時系列で紹介

ここからが本題です。南ちゃんが登場するCMを、公開順に見ていきます。各シーズンのCMは1本の中に15秒〜30秒の短編が何本も入っている構成で、尺が長いものでは10分近くあります。

2014シーズン(2013年12月公開)|南ちゃん誕生、恋の前線は南から

南ちゃんの第1作。冒頭、「エッチなCMを流していたところ」と言われて素直に謝るところから始まり、そのまま南ちゃんとテッちゃんの初々しい恋物語へ入っていきます。

「恋の前線は南からやってくる」「センチメンタルウィンター」といったコピーが並び、雪とスキーと恋を強引に結びつけていくのがこのシーズンの型。後年ずっと使われる「スノボってどうやるの?」「こう、こう」のやり取りも、すでにこの年に登場しています。

再生数はシリーズ最多で、2026年8月時点で98万回を超えています。

2015シーズン(2014年11月公開)|「新・南ちゃん」登場、まさかの三角関係

2作目にして、シリーズは早くも斜め上に進みます。南ちゃんとそっくりな「新・南ちゃん」が交互に登場し、テッちゃんが二股をかけていることが少しずつ露見していくという展開です。

「恋のトライアングルウィンター」というコピーどおり、甘い恋愛CMの体裁を保ったまま、視聴者だけが不穏な事実に気づいていく構成。テッちゃんの独白が「僕のせいだ」「全部僕のせいだ」と壊れていく終盤は、スキー場のCMとは思えない緊張感があります。

2016シーズン(2015年12月公開)|五ヶ瀬で働く南ちゃんとの再会

三角関係の結末は、テッちゃんが両方に振られるというものでした。3作目は、傷心のまま歩き続けたテッちゃんがたどり着いた先で、南ちゃんが五ヶ瀬ハイランドスキー場で働いていたという再会から始まります。

このシーズンの見どころは、笑いだけで押し切らなくなったことです。五ヶ瀬の夕日、天然温泉、五ヶ瀬産ぶどう100%のワイン、親切なインストラクター——町の魅力を南ちゃんの再生の物語に重ねていきます。制作側も「シリアスなシーンや感動的なシーンを入れることで、逆に面白さが深まる」と狙いを語っています。

開場25周年にあたるシーズンでもあり、ラストでは将来を思わせるカットも用意されています。

2017シーズン(2016年12月公開)|『目指せ4万人!』町ぐるみの11タイプ

前シーズンの来場者数が過去最低に落ち込んだことを受けて作られたのが、この『目指せ4万人!』です。4万人は、五ヶ瀬町の人口のおよそ10倍にあたる数字でした。

特徴は、南ちゃんひとりに頼らず、町長・副支配人・インストラクター・食堂スタッフ・地元の中学生・農家まで総出演する全11タイプ構成にしたこと。チキン南蛮定食を「チキン南番定食」と呼んで50円オフにする、当時流行していた入れ替わりネタを入れる、といった仕掛けが並びます。

公開4日前には予告編も出されました。「南ちゃんが泣いています」という煽りだけで100秒引っ張る予告編で、これも13万回再生されています。

終盤、人口4,000人の町の暮らしを紹介したうえで、南ちゃん自身が「結構リアルに困っています」と語りかけます。笑って見ていた視聴者が、最後に町の事情を知る——この構成が、シリーズが単なる話題狙いで終わらなかった理由です。

2018シーズン(2017年12月公開)|『今シーズンは、南も営業っ!』

5作目のテーマは営業活動。南ちゃん自身がスーツを着て都会に出向き、五ヶ瀬ハイランドスキー場に来てくださいと頭を下げて回るという設定です。

初心者コースを新設したシーズンでもあり、CMでも上級者から初心者まで楽しめる点が押し出されています。この年のCMは東京コピーライターズクラブ(TCC)にも作品として登録されました。

2019シーズン(2018年12月公開)|南ちゃん、引退

そして6作目。集客のために南ちゃんが選んだ最後の手段が、自身の引退でした。

役場の職員、かりんとうを手作りするおばあちゃんたち、南ちゃんに憧れる女の子——町の人が次々に登場し、最後のシーズンを見送ります。CM内では南ちゃんをモチーフにしたソフトクリームやワインまで登場し、5年かけて町にキャラクターが根づいたことが分かる作りになっています。

クリエイティブディレクターの左さんも、南ちゃんが「町の皆さんからリアルに愛されていて」と撮影で実感したと語っています。実際に2018年12月25日には、藤田可菜さん本人がスキー場に来場するイベントも行われました。

ラストは、テッちゃんと出会ってからの6年間を振り返る南ちゃんの独白で締められます。ネタと下ネタで押してきたシリーズが、最後にきちんと感動で着地する構成です。公開当時、ネットには「南ちゃんロス」の声があふれました。

空白の5年(2020〜2024シーズン)

南ちゃん引退後の2020シーズンは、リフトから降りるイメージトレーニングをする中年男性を描いた30秒CMが作られました。南ちゃんは登場せず、ネットでは物足りないという反応が目立ちました(この動画は現在、YouTubeで視聴できません)。

さらにスキー場自体が苦境に立たされます。2022年の台風14号による被害で、2022年12月からのシーズンが中止。翌シーズンも休止となり、3シーズン連続で営業できない状態が続きました。

2025シーズン(2024年12月公開)|5年ぶりの復活、母になった南ちゃん

2024年12月20日、五ヶ瀬ハイランドスキー場は3年ぶりに営業を再開します。それに合わせて、南ちゃんが5シーズンぶりにCMへ帰ってきました。

まず11月30日に予告編が公開されます。「あの南ちゃんが本当に帰ってくるかどうかも含めて、本編をお待ちください」という思わせぶりな作りで、期待を煽りました。

そして12月24日に公開された本編は、全14話・約10分の大作。南ちゃんとテッちゃんは結ばれており、2人の間には「ゆきちゃん」という年頃の娘がいるという設定になっていました。前史の「ゆきちゃん」と同じ名前が、娘として戻ってきた形です。

面白いのは、この復活作がシリーズの過去そのものを題材にしていることです。娘のゆきちゃんから今の時代の感覚を突きつけられても、南ちゃんは「今年もいつもの南でやり切ります」と返します。かつての際どいCMを封印するのではなく、自分たちで笑いながら引き受ける——復活作にふさわしい落としどころでした。

ラストには、営業再開当日のオープニングセレモニーの映像も収められています。結果的に、これが南ちゃんの最後の出演作となりました。

南ちゃんが出ていない最終シーズンのCM(2026シーズン)

2025年12月に公開された2026シーズンのCMには、南ちゃんは登場しません。宮崎・熊本・鹿児島の九州3県を回り、街頭で一般の人に話を聞くドキュメンタリー形式で、全33タイプが制作されました。

スキー場を知らない人、昔は滑っていた人、娘を持つ父親——実在の人たちの反応をそのまま素材にして、学割やレンタルの充実といった実用情報を差し込んでいく構成です。目標は来場者3万人。物語ではなく、地元の人にどう届けるかへ完全に舵を切った内容でした。

南ちゃん出演CM一覧(公開順)

ここまで紹介したCMを表にまとめます。再生回数は2026年8月時点のものです。

公開日 シーズン 内容 再生回数
2012年11月14日 2013(前史) ゆきちゃん編。南ちゃん登場前 4分57秒 約79万回
2013年12月4日 2014 南ちゃん初登場。テッちゃんとの恋物語 2分45秒 約98万回
2014年11月25日 2015 新・南ちゃん登場、三角関係 4分1秒 約68万回
2015年12月23日 2016 五ヶ瀬で働く南ちゃんと再会 5分18秒 約55万回
2016年12月19日 2017 『目指せ4万人!』町ぐるみ11タイプ 4分1秒 約23万回
2017年12月14日 2018 『今シーズンは、南も営業っ!』 6分11秒 約19万回
2018年12月13日 2019 南ちゃん引退。町ぐるみの見送り 4分59秒 約13万回
2024年12月24日 2025 5年ぶり復活。全14話、娘ゆきちゃん登場 9分58秒 約3.6万回
POINT 初期3作の再生回数が突出しているのは、当時「ちょっとエッチなCM」としてまとめサイトやSNSで爆発的に拡散したためです。一方、町ぐるみ路線に切り替えた2017年以降は再生数こそ落ち着きましたが、地元での定着度はむしろ上がっていきました。

南ちゃんを演じた藤田可菜さん

南ちゃんを演じたのは、福岡県出身のタレント・藤田可菜さん(1989年生まれ)です。九州を拠点に活動しており、2014シーズンから2019シーズンまで6シーズン、そして2025シーズンの復活作に出演しました。

CMの中では天然でちょっと危なっかしいキャラクターですが、実際はスポーツ万能で、バックパッカーとして海外を旅していた経歴の持ち主です。南ちゃんの引退が発表された際には、本人がスキー場に来場するイベントも開かれました。

2026年7月、35年の歴史に幕

2026年7月7日、五ヶ瀬町の小迫幸弘町長が臨時町議会で、五ヶ瀬ハイランドスキー場の廃止を正式に表明しました。1990年の開場から35年での決断です。

町が挙げた理由は次のとおりです。

  • 暖冬と降雪量の減少——安定した雪づくりが難しくなっていた
  • 季節従業員の確保難——十分な営業日数を確保できない
  • 施設・設備の老朽化——維持には多額の設備投資が必要
  • 財政負担——直近シーズンの入場者数は1万5,345人まで落ち込み、町が約7,000万円の赤字を補填していた

町議会でも、今後のあり方に関する決議案が全会一致で可決されました。跡地となる向坂山森林公園一帯は、スキー場以外の形での活用が検討されています。これにより、九州のスキー場は熊本県の1か所のみとなりました。

CMの中で南ちゃんが「結構リアルに困っています」と語りかけていたのは、まったく誇張ではなかったわけです。10年以上にわたって全国の注目を集め続けたCMシリーズをもってしても、雪が降らないという現実は覆せませんでした。

まとめ

五ヶ瀬ハイランドスキー場のCMを時系列で追うと、単発の面白CM集ではなく、一本の連続ドラマだったことが見えてきます。

  • 2013シーズンは「ゆきちゃん」編。攻めすぎて放送規制がかかった
  • 2014シーズンから南ちゃん登場。恋物語として仕切り直し
  • 2015〜2016シーズンで三角関係から再会へ。笑いに感動が加わる
  • 2017〜2018シーズンは町ぐるみ路線。集客の切実さが前面に
  • 2019シーズンで南ちゃんが引退。6年間の集大成
  • 2025シーズンで5年ぶりに復活。母になった南ちゃんが最後の出演に
  • 2026シーズンは街頭インタビュー形式へ。そして同年7月、廃止が決まった

スキー場そのものはなくなりましたが、CMはすべてYouTubeに残っています。冬に雪山の話題が出たとき、家族や友人と一緒に振り返ってみてください。九州の小さな町が10年以上かけて作り続けた、ちょっと変わった記録が残っています。

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